ペルーアンデス② 〜Quitaraju "Dream House"〜



 2023年のWCM(ウィンタークライマーズミーティング)に参加した際、成田・竹中ペアによるタウイラフ登攀の話に強く刺激を受けた。巨大な山の中で同世代が経験したギリギリの駆け引きや葛藤に憧れた。さらには6000m級の巨大な山々に街から容易にアクセス可能で、面倒な手続きもなく予算も抑えられるという高山初心者にうってつけの環境も魅力的だ。

 当初は坪ちゃん(大坪)と僕の高所童貞2人の予定だっただけに、6000mの経験豊かで昨年もペルーで登っている雄大くん(鈴木)の参戦が決まり大変心強かった。


 遠征前に十全に登り合わせをしたいところだったが、中々3人の日程が合わず、しまいには僕が膝の靭帯を痛めてしまった。結局3人揃ったのは出国直前に行った富士山での順応のみという少し不安の残る形に。


 ここコルディエラブランカは、ワラスの街から近く昔からよく知られたエリアであるだけに、魅力的な未踏のラインを見つけるのは容易ではない。登られていない壁は岩が脆いか上部セラックが危険すぎるといった場合が多かったが、3人でこの山域の写真を漁っているとキタラフ南壁の画像が目に留まった。南東稜から南に分かれて伸びる急峻な尾根が、画面中央に映っている。下部は岩の要素、上部は雪の要素が強く、客観的リスクも少なそう。どうやらこのスパーは未踏らしく、見た目もスケールも申し分ない。まだいるじゃない、良さげな子が。



 現地で初めて見上げたその壁の第一印象は、「イカしてる」。壮大なスケールで展開される岩と雪の織りなすモノクロの造形美を一目見て、これは全身全霊で立ち向かう価値のあるラインだと直感した。むしろなんで登られていないのか不思議でならない。

 

 アタックまでは順調だった、と言いたいがあくまで僕個人としては波瀾万丈な日々となった。万全を期したはずの高所順応では、5000mにも満たない地点で高山病の症状が強く現れ、激しい頭痛と下痢に一時は今遠征を辞退すべきかと本気で考えた(前記事参照)。それでも2人のおかげでなんとか無事にキタラフ北壁ルートを登って順応を終えると、今度は季節を間違えたように降り続く雨に何日も振り回された。

 街で一週間ほど悶々とした日々を過ごし、いい加減ペルー料理にも飽きてきた僕らはBCの湖へと向かったが、壁も見えず連日の雨で湿っぽいテント内に閉じこめられる時間はあまり素敵とは言えなかった。最悪なことには、天気待ちの日々で風邪を引いてしまい、喉がやられて咳が止まらない。こんな状態でこんなデカいのが登れるのかしら...


 月の明るさで目が覚める。久々の快晴で、抑圧されていた僕らの士気は急上昇していた。ABCに上がり、壁を眺める。事前のトレーニング不足感や体調面の不安が拭えない、と同時に、思ったよりも簡単であっさりと終わってしまったらどうしようと考えている自分がいて可笑しかった。


Day1

 初日は稜線というよりも壁といった内容の登攀。この日が一番ロープも伸ばせてイケイケだった。

 遠目からも顕著なガレた大ガリーを詰め、巨大なチムニーに行手を阻まれたところで左のドライな側壁を攀じる。想像以上に脆くて先行きが不安になるが、坪ちゃんのナイスリードにより決戦の火蓋が切って落とされた。側壁から白くなったガリーに上手いこと戻ることができ、アイゼンをつけて雄大くんリード。厳しいチムニーやランナウトした薄被りアイスを同時登攀でガンガン越えて高度を上げる。半分だけ刺さったピトンで結構悪いアイスを20mくらいランナウトしていた。恐るべし。

 マイターンでは無駄に悪そうなところに行って最近覚えたトルキングなんかをこれ見よがしにかまして短くピッチを切る。どういうわけか徐々に雪の状態が悪くなっていき、ピッチごとに時間がかかる。目標のポイントより少し手前で日没となり、キノコ雪の上にテントを張って寝る。雄大くんの足と坪ちゃんの頭はほぼ宙に浮いているみたい。朝2時起きだったのでクソ眠いがいまいち寝れなかった。




Day2

 ルートの前半は小さなマッシュルームがたくさんあり、稜線を複雑に占領している。小さいと言っても僕らよりははるかに大きいので落ちて来ようものならひとたまりもない。時折彼らの前を通過しなければいけないときは、「ちょっと失礼しますね、僕らのことはどうかお気になさらず...」といった具合である。場合によっては股をおっ広げていることがあるので、そういう時は無礼を承知でその下をくぐらせていただく。

 そんな訳の分からないクライミングでじわじわと稜線上を進み、ちょうどいいアイスケーブを見つけて2泊目。気の抜けるピッチがほんとに一つもない。

キノコと戯れる



Day3

 今日は下から眺めてヘッドウォールと呼んでいた壁へ。といっても左脇の唯一傾斜の緩くなったところを登るつもりだ。が、そこへ至る直前のガリーの雪質が悪く坪ちゃんが大格闘する。いわゆるアンデス名物のシュガースノーというやつで、支持力ゼロの曲者だ。振れども振れども雪の中を泳ぐだけのアックスに手応えは皆無だが、腕には乳酸とストレスが容赦なく溜まっていく。たまらず岩に希望を求めて掘り出してみても、グラグラ動く脆いフレークだらけ。冬壁では岩は氷にパックされて、、なんて常識もここアンデスでは笑い種だ。

 さてさて坪ちゃん粘りのクライミングでヘッドウォール取り付きまでなんとかロープを伸ばすと今度は雄大くんのターン。リッジの右にはハングした氷がぶら下がっていて、下見ではここを行くつもりだったがヤバそう。急遽リッジ左へ。これが功を奏して、その後もチビキノコを右へ左へと翻弄して騙しながら進むと、南東稜に合流したではないか!合流点には巨大キノコが2体いるが、傘の下を通ってこやつらの間を北側にすり抜けると見事に氷の寝床が現れた。上部には氷柱がぶら下がっていて気持ち悪いが、横になれるのでヨシ。この日の夜にペルーで大きな地震があったことは知らぬが仏...


シュガースノーとの格闘



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