The Groke: or the Prostate Arete
先日、仏壇岩にあるモアイ岩の前衛壁にボルトを打って登った。前途有望なクライマー中川くんがトライしてくれているのをビレイしながら見上げていると、その岩の塊がモランに見えてきた。一度そう見えると、もう他のものには見えなくなってくる。
このカンテにはもともと昔のエイドルートのものと思われるリングボルトが連なっていた。やけに心惹かれてぶら下がってみるとこれがなかなか面白いし、ムーブもできてしまった。まさか自分がボルトルートを作ることになるとは思ってもいなかったが、ルートのフリー化あるいは再生という名目で自分を騙し騙しリングボルトを抜いてグージョンを打つことにした。たぐり落ちのリスクやリーチの多様性を考えながらテーピングでバツ印をつけてボルト位置を決める。ボルト位置の選定は想像の何倍も悩ましく、それだけで二日くらいかかってしまった。
瑞牆の「Lunch Time Affair」を登ったとき、人生でたくさんボルトを打つことはないはずだし、打つならハンドドリルにしようと思い立った。あのときは大変な中にもハンマードリルを使わずに穴を開ける面白さを見出せた気がするのだけど、今回一本目を打ち始めた段階ではやくも心が折れかけていた。半日かけてようやく一本ボルトを埋め、上に待つバツ印を眺めて頭を抱えた。もう一度上から下までムーブを起こしながら熟考し、ボルトを一本減らすことにした。けっこう恐ろしいけど、理不尽なランナウトではないように思えた。
二本目に取りかかって半分くらい進んだところで、腕が攣った。
手打ちってこんなにキツかったっけ?
どうやら小川山の花崗岩は瑞牆よりもかなり緻密なようだ。
もう一度上を見て、あっさりとあきらめた。終了点も含めたら一週間はかかってしまう。とてもじゃないけど、とてもじゃない。
その翌週には借りたハンマードリルを唸らせて残り五本のボルトを打った。全て打ち終えるのに二時間とかからなかった。穴が穿たれていく速さに驚くと同時に恐ろしさを感じた。これに慣れたらいくらでもルートを作れてしまう。
結果的に電動ドリルを使ったが、手打ちの心づもりで印を付けたために(良くも悪くも)ボルトの数はミニマルになった。出だしからガツンと難しいので地面から手が届く位置に一本目を打ったが、二本目のヌンチャク掛けは注意が必要。なるべくリーチ差が出ないようなボルト位置にしたつもりだけど、二本目に関してはリーチがない人はプリクリしたほうがいいかもしれない。
ボルトがラインを規定しすぎないようにと考えて、ラインがふた通り取れる部分はボルト間隔が離れている。
ある人は、ボルトというものは原則として後続者から自由を奪うものだと言った。
先鋭的なほど難しいわけでもない、たかだか一ボルトルートでなにを仰々しいと思われるかもしれない。それでも他の誰でもない自分がルートを作る以上、鼻で笑われるようなものにはしたくない。「こんなルートになるのなら私がラインを引きたかった」と思ってほしくない。そこには何らかの思想が表れていてほしいし、そのラインをなぞる人に何かを感じ取ってほしい。
俺のエゴはまた、若い世代に「ボルトが多すぎる」と非難されたいともひそかに思う。
GWはウズウズしながら仕事をこなし、ようやく訪れた休日に中川くんが付き合ってくれることになりオンサイトトライをしてもらった。進むべきか否か逡巡する姿を見る限り、やっぱりなかなか恐ろしいみたいだ。俺は散々ぶら下がっていたので(それでもギリギリ)一発で登れたけど、最後の核心では声が出た。最初のハング越えも最後のスラフェースも気合が要るし、ルートを通してずっと緊張感があってしっかり面白いラインだと思う。
まだ岩が安定してないので、表面は少し欠けることがありそうだ。特に降雨の直後は欠けやすいので注意されたい。
触れるもの全てを凍らせる魔女、モラン。ひとりぼっちで恐ろしい彼女は誰にも好かれないけど、本当は温もりを求めている悲しきモンスター。このルートもそんなモランのように、周りにアップルートもなくアプローチも遠くオールボルトながら怖さもあるのでみんなにオススメはできないけど登ってもらえたら嬉しいと思っている、
というのはこじ付けでただ見た目が似ていただけでそう名付けた。モアイとモランの語呂もいい、と言われればそんな気もしてくる。
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ところでモアイ岩は古くは亀頭岩と呼ばれていた。位置関係からして亀頭岩の下部にある岩塊は必然的に陰茎の連想を免れない。
高く聳え立つ岩塔は古来より男根崇拝の偶像として呪術的な魅力を醸し出し、人々を惹きつけてきた。このカンテもまたそのような呪力で私をしがみつかせしめたという説に反駁の余地はない。
とはいえこのラインは陰茎的なる岩塊のさらに下に鎮座し、木々に囲まれているため意外なほど近寄らなければ姿が見えない。睾丸と呼ぶにはやや丸みが足りず、なにより対になる片割れが隣にいなければその暗喩は成立しない。となれば畢竟、前立腺カンテと呼ぶのが相応しかろう。奥に一歩引いたこの器官、わかる人にはわかる、感じる人はものすごく感じる性感帯だという。(私にはまだわからない)
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以上の思考回路とモランの連想が同時並行で進んだので、当面はこのカンテラインを
「モラン、あるいは前立腺カンテ」
と呼びます。
この名においては女性であるモランと男性的な前立腺が並列されているので、コンプライアンス的にも非常に誠実でポストポストモダン的だと言えるでしょう。
繰り返しになりますが、このルートが後世のクライマーに鼻で笑われないことを願うばかりです。
ムーミン公式サイトより引用
◎5/15追記
協議の結果、正式なルート名は「そ」に決まりました。
お疲れさまでした。
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