岩日記

  この秋は印象深い岩登りがいくつかできた。ちょっと袖をまくって日記を書いてみよう。


10/31 

 雨や体重増加でなかなか思うように登れない8、9月を経て、やっと調子が上がってきたと思えた日。なぜかユージさん、堀さん、大西さん、村井さんという濃すぎるパーティに混ぜてもらい、ものすごい勢いで開拓が進んでいる裏八幡岩へ。

一人だけ場違いな奴がいる...


 まずは村井さん初登の「ひじき」12c。ボルトルートではあるがランナウトに耐えてグルーブをじわじわと進む好きなタイプのルート。出だしで気圧されてか足を滑らせてしまったが、その後は気持ちを新たに終了点までノーフォール。気合で張り付いていたのでかなり疲れた。メンタル的にもこの日もう一回トライすることは難しかった。

 続いて安間さん初登の「Gem Prosciutto」13b?。よくよく観察すると定期的にレストポイントがありオンサイト向きに見える。複数の厳しいボルダーがガバを挟んで連続している感じだ。何度も行きつ戻りつした後に覚悟を決めて一つ目のボルダーを越え、ガバレスト。二つ目はそこまで難しくないがバランシ―。ここのレストはいまいちで、次のボルダームーブに頭を捻っている間に徐々に吸われていく。どうにも分からない時は視野を広げてみる。ノーマークだった左面に薄カチを見出して辛くも攻略。しかしガバだと思ったホールドはスローパーで急速にHPが減っていく。バランスが悪くてどうしても左手がチョークアップできずにぬめっていく。結局次のムーブが閃かないうちに左手が抜けてロープにぶら下がってしまった。100m全力疾走した後のような激しい息切れと共に悔しさが込み上げてくる。いま、確かに惜しかったのだ...!パンプでもう一度テンションを掛けて抜け、次のトライでRP。しかし大西さんがあまりにあっさりオンサイトしてしまい驚愕する...。

 おそらく13aくらいと思うが、そのグレードのオンサイトが勝負できると実感したのは大きな収穫だった。

 余談だが、実は3年ほど前、まだほとんどルートが無い時に裏八幡岩の可能性を探りに基部まで来て、そのときはボルトが必須に見えるこの壁に、私はお呼びじゃないと踵を返したことがある。この日再びこの岩塊を前にしてボルトの数に少したじろいだのだが、登ってみればどれも素晴らしいルートばかりで驚いた。ボルトを打つことに強すぎる抵抗を持つのはもったいないことかもしれないという考えが浮かんだが、まだ答えは出ない。


11/5

 まだ早いと思いつつも、いつまでも温め続けるわけにはいかない。フリーダムのオンサイトトライを決行することにした。結果は惨敗。核心の縦スローパーを叩いて絶望と共に落ちた。結局30分くらいそこにぶら下がってやっとムーブが分かる始末だったが、これが今の実力。受け止めるしかない。上にはいかず降りてきたので、二トライ目は上部のオンサイトを狙って登り出す。ぎりぎり一発で核心を抜け、クラックが閉じた凹角で諦めそうになったのをなんとか耐えたが、最後のスラブ/フェースで力尽きた。振り絞りすぎてもうトライできる状態ではなく、完全敗北で下山。それでも今の全力を出し切ったと思えた一日だった。

 次の週にレッドポイントしたが、ムーブが分かっていてもなかなか際どいクライミングになった。この威容にこの内容、長さ、ロケーション、難しさ、どれをとっても一級品。こんなルートを自分で見出して初登できたらどんなに幸せだろうか。


11/6

 昨日の今日でLOLのオンサイトトライ。核心は気合で抜けたが、上の緩傾斜でパンプが抜けずにフォール。ジャンボさんがオンサイトしているらしいので余計に悔しい。フレッシュだったら、と思わずにはいられないが、そんな身体の状態も含めて一期一会。こちらは二便目でしっかり登り切れたので良しとしたい。それにしても見た目よりもずっと面白いルートだった。

 帰り道は腕が上がらないほど疲弊していて、サラテをオンサイトトライしようという発想の驚異を垣間見たような気がした。全くもって、同じ人間とは思えない。


11/8

 中川君が御祝儀岩で開拓中のプロジェクトに同行。1ピッチ目は被ったワイルドなクラック。これは前回中川君がマルボー夫妻とグランドアップのエイドで登っており、フィックスを張って何度か通っては掃除していたようだ。この日の朝一に中川君がレッドポイントし(12a?)、俺はフォローで上がってニピッチ目に取り掛かる。中川君のファーストトライ。傾斜は緩いが、カムを採れる節理が乏しいようだ。あと一歩上がればリスに届くが、落ちたら怪我をしそうなところでしばし逡巡し、クライムダウンして選手交代。ハンギングビレイで冷たい風に吹かれて震えていたので、嬉しいマイターン。登り始めてすぐ、好みのクライミングだと感じた。スラブにポケットが散りばめてあり、スメア勝負のところはないので落ち着けば先に進める。ハーネスの右側にワイヤーブラシ、左側にハンマーとハーケンを携えて、じりじりと登り、リスに到達。ポケットに突っ込んだ両足でバランスを取りながらハーケンを打ち込むと、いい音が聞こえて一安心。中川君にこのまま登っちゃっていいか訊くと快諾してくれたので、お言葉に甘える。登りながらワイヤーブラシでポケットの苔をほじくるのだが、ブラシの先が減りすぎててうまく磨けない。こういう時には新品を持ってきてくれ中川くん...。順調にポケットとリスで前進したが、最後にちゃんとしたスラブボルダーが待っていた。最後のハーケンは落ちれば多分抜けるが、その下のカムは効いてそう。一つ脳内のギアを上げ、中川君に声を掛けて登り出す。数歩進むと真上にダイクが見えて、思い切り飛びついてフィニッシュ。あとは簡単なクライミングで岩の上に出ると、シルバーフリーウェイの終了点があった。なるほどここに出るわけか。フォローで中川君を迎え、懸垂しながらハーケンもすべて回収すると、まっさらになった壁を見上げて満足感が込み上げる。

 グレードは10bくらいだろうが、これはなかなか楽しい遊びだ。やってることは沢とかアルパインと同じなんだろうが、乾いた岩好きには一番萌える。中川君と二人で、かの有名なYetiジェラートでお祝いして帰宅。


11/13

 アスレチック・クラブも温めていたルートの一つ。すでに日がばっちり当たっているのでアップも早々にトライ。出だしはトーテムがばっちり効いてるし、瑞牆クライミングガイドではPDになっているし、余裕だろうと思って登り出し、すぐにクライムダウン。ん、悪いぞ...?倒木の上からもう一度じっくり観察し、今度は慎重に進んでガバまでたどり着いたが、これは落ちれるやつだった。しかも確実にグラウンドなので、普通にRじゃないか...。しかし気合を入れるのはここから。プロテクションの効きは良いが、毎回覗き込まないと決められないので張ってくる。ラストのハンドっぽいクラックまで何とか漕ぎつけて、いただいた!と思ったが予想以上に浅い。限界の腕をフットジャムでいなしながらどうにか進み、ガバカチを捉えた。が、パンプが激しく最後の10aくらいのセクションがとてもつらい。必死にシェイクを繰り返してなんとかマントルを返した。終了点にクリップして思わずガッツポーズ。嬉しいというよりほっとした。

 しかしこれは明日に向けてのほんのアップに過ぎない、というつもりであった。


11/14

 村井さんと巨人ゴーレムの「オールドリバー」へ。そう、こいつが本命だった。小川山で初めて歩く道は新鮮で気持ちのいい登山。一時間半ほどでゴーレムの頭に遭遇。本体はそこから思っていたよりも下るが、下から眺めるとその迫力と美しさは凄まじい。王鞍君が誘ってくれたし、オンサイトトライする?と言っていただいたのだが、何となく勝てる気がしたので、じゃんけんで決めましょう、と言って見事に負けた。正直かなり落ち込んだ。

 しかし核心と思しき箇所で派手に落ちてきた村井さんの様子から、見た目よりもかなり恐ろし気で悪そうだ。気合で上まで抜けて、今度は僕の番。村井さんのムーブをばっちり見ていたが、全く同じところでフォール。ああ、気持ちで負けた...。良いカチが待っているという情報でなんとかランナウトを抜けたが、そこからがさらに悪く感じた。結局何度もテンションして這い上がり、手の甲と指から血を流して全身よれよれで終了点まで辿り着いた。こみねっちのことだから12c Rといっても12bくらいで大して怖くないんだろう、とか思ってごめんなさい。今日はもう気力的にも体力的にも無理なのでまた忘れた頃に来ます、と村井さんに告げた。

 少し休憩して村井さんの二トライ目。吠えながらランナウトセクションを越え、その先(個人的に核心部)を謎のレイバックでじりじり登り、視界から消えていく、そして遥か上方から喜びの声。まじかよ...。村井さんが降りてきた時点で16時になっていたし、疲れは抜けないし、雲が降りてきて薄暗くなりおまけに霧雨まで降ってきたが、あんな良いクライミングを見せられてこのまま帰るわけにはいかない。

 急いでラッキングし、ヘルメットをビーニー帽に代えて登り始めた。今日で燃え尽きてやる、そう思って腕の張りも霧雨も無視して吠えていたらいつの間にか核心を越えていた。あとはもうお馴染みになった、しかし変化に富んでいて気の抜けない、長く素晴らしい割れ目を登って岩塔の上に立った。暗さと雲で展望はあまりないが、何もかも喜びに満ちていた。

 このルートのオンサイトにはまだまだ実力が足りなかった。それでも後悔は微塵もなく、ルートを掘り起こしてボルトを打たないでくれたこみねっちにただ感謝の気持ちが芽生えた。サンキュー、コミネム。

右の正面を縦に割るクラックがオールドリバー


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